錦上添花

← ブログ一覧に戻る トップに戻る

『あてなき始発列車』ができるまで ― 変わりゆく街と、走り出す音

止まっていた街から、動き出す世界へ

『潮風の駅』を作っていた頃は、海辺の小さな駅や、その周辺にある静けさといった「ひとつの小さな点」を描いていました。

そこにある街は静まり返っていて、時間が止まっているかのような場所でした。

けれど、今回の『あてなき始発列車』では、列車が動き出すとともに、窓の外の街並みも少しずつ姿を変えていきます。

駅に留まっていた視線が、列車とともに少しずつ遠くへ進んでいく。

そんな変化を、ひとつの曲の中で描いてみたいと思いました。

街の情景が移り変わっていくグラデーション

『潮風の駅』の頃に描いていたのは、波の音とピアノが響く、静寂に包まれた海の見える小さな駅でした。

そこでは、駅そのものが物語の「停留所」のような存在で、風景そのものが主役だったのだと思います。

そこから『あてなき始発列車』では、早朝の寂れたホームから列車が動き出します。

線路沿いの民家。

薄暗い街灯。

少しずつ遠ざかっていく駅。

そして、やがて見えてくる、より大きな街の風景。

列車が進むにつれて、窓の外に見える景色は少しずつ変わっていきます。

その変化を、音楽の中にも落とし込んでみました。

列車が動き始めた直後は、まだ駅の静けさが残っています。

そこから少しずつリズムや旋律が重なり、窓の外の景色が変わっていくように、曲の表情も変化していきます。

駅を出たばかりの風景から、住宅街へ。

そして、少しずつ大きくなっていく街へ。

ひとつの場所に留まっていた『潮風の駅』から、時間とともに景色が流れていく『あてなき始発列車』へ。

その「移り変わっていくグラデーション」を、一曲の中で表現したかったのです。

なぜ「街の変化」を描きたくなったのか

こうした変化を描きたくなったのは、自分自身の心情の変化もあったのかもしれません。

以前は、「どこか取り残された場所」の静けさに惹かれていました。

誰もいない駅や、列車が去ったあとの風景。

そこに残されたものを眺めながら、静かに時間が流れていく。

『潮風の駅』には、そうした感覚があったのだと思います。

けれど今は、迷いながらも移り変わっていく景色や、そこに生きる人々の時間を描きたいと思うようになりました。

同じ場所に留まり続けるのではなく、あてがなくても前へ進むことで、見えてくる街の表情が変わっていく。

行き先が決まっていなくても、列車は走り出すことができる。

そして、走り出したからこそ、それまで見えていなかった景色を見ることができる。

『あてなき始発列車』では、そんな感覚を音楽にしてみました。

これから巡る、さまざまな街の表情へ

『潮風の駅』では、ひとつの場所に残る静けさを見つめていました。

海辺の小さな駅に佇み、そこを通り過ぎていく時間や、そこに残された風景を音にしていたのだと思います。

『あてなき始発列車』では、そこから列車に乗り込み、移り変わっていく景色を眺めています。

駅を出て、まだ静かな街を抜け、少しずつ遠くへ進んでいく。

窓の外に見える景色は、列車が走るにつれて少しずつ姿を変えていきます。

まだ行き先は決まっていなくても、列車は走り出す。

そして、走り出したからこそ見えてくる景色がある。

それは、もしかすると音楽を作ることにも少し似ているのかもしれません。

最初からすべての行き先が決まっているわけではなくても、ひとつの音を鳴らして、そこから次の音へ進んでいく。

その先で、作り始めたときには想像していなかった景色が見えてくることがあります。

『潮風の駅』というひとつの静かな場所から出発して、『あてなき始発列車』では、その先へと進み始めました。

これからこの列車がどんな街を通り、どんな景色を見せてくれるのか。

そして、その先でどんな音楽に出会うことになるのか。

その景色の移り変わりも含めて、ぜひ楽しみにしていてください。

← ブログ一覧に戻る トップに戻る